愛しのウミといた時間

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その夜、真夜中にウミが私を起こしに来た。

起こすというより鳴き声で私の目が覚めてしまうのだ。

 

午前零時とか一時のことが多い。

私が寝てまだ二、三時間しか経っていない。

だから私はいつも寝不足だ。

 

だが、これがウミが家へ来てからの習慣なんだから仕方ない。

 

私は寝ぼけ眼で飛び起きて、用意したおいた猫缶を開けて皿へ入れる。

で、またすぐに寝る。

 

それから三、四時、間朝まで眠る。

家にいるときの私の生活は、大体ウミに合わせている。

 

仕事を除いて。

それだけはこっちのペースでやらないと、仕事にならない。

 

ウミはほんとよく鳴く猫だ。

お腹が空いたと鳴き、寂しいと言って鳴き、トイレへ行きたいと言って鳴く。

 

私が部屋で仕事をしていると、ドアの前で鳴き声がする。

遊ぼうと言ってんだ。

仕事を中止して部屋を出る。

 

どんなに忙しくても、原稿の締め切りが迫っていても部屋を出る。

寝室へ行ってベッドにひっくり返ると、ウミが横に座る。

 

そして右手を私のお腹に乗せる。

私のお腹の上に乗ってもいいかと言う合図だ。

「おいで」

 

私が言うと、それを待ってたように私の上半身だけへ上がって来る。

その時、小さく口の中でニャゴニャゴと言う。

 

「なんで私のそばにいないのよ!」

と文句を言ってんだ。

可愛すぎて私は抱きしめたくなる。

 

ウミは確実に猫語で話している。

私には分かる。

バカバカしいが、それから私とウミとの会話が始まる。

 

ウミのでかい目が、私の顔の五センチ前にある。

私は決して赤ちゃん言葉や目線下の言葉で話さない。

ウミが人間だと思って話す。

 

それにウミは、人間と同じように反応するからだ。

人間は猫や犬には人間の言葉がわからないと、最初から決めつけてはいけない。

 

ウミは驚くほど私の言葉がわかる。

怖くなるくらいだ。

それを分からないふりをして人間と生活しているかと思うと、ウミの前で妻と喧嘩なんかできない。

 

一日に一度、私は彼女を口説く。

知らない女性は口説かないが、猫は口説く。

野良猫も口説く。

 

猫には確実にそれが分かっているから面白い。

「パパ、ウミちゃん大好き!お利口で可愛いからパパ大好きなんだ!」

 

これは他の人間には聞かせられない。

妻もこれを聞いたら、私がどうかなったと頭を疑うだろう。

だから、私とウミだけの秘密だ。

 

その時、ウミはじィっと私の顔を見つめている。

そして「ウミちゃんはどうなの」と聞くと、

急に自分の体を舐め始める。

 

いま忙しい!と言うように、答えを保留しているのだ。

笑ってしまう。

人間の女性とおんなじじゃないか。

 

いつか前にこんな女性がいたっけ。

しかし、このやり取りでウミの私に対する信頼は絶大だ。

猫は私たち人間が思っているより、ずっとずっと分かっている。

 

ただ、そうになるには二つ条件がある。

一つは完全に人間扱いしてやること。

二つ目は本気で可愛がってやること。

 

猫は可愛がれば可愛がるほど利口になり、

こっちを本気で好きになつてくれる。

ただ、猫は人間よりずっと寿命が短い。

 

別れの時はすぐにやって来る。

私はこれまで愛する猫たちとの別れに、

何度涙を流したことか!!