人生を変える名作知友の名作映画百選

(1)「セッション」

コンセプト:これはジャズの映画ではない。音楽学校の新人ドラマーと天才を作ることを目的とする教師との狂気と葛藤、才能の凄まじい人間ドラマである。

 

ストーリー:一年生でドラマーのニーマンは教師フレッチァーに認められ彼の授業を受けるが、天才を作ることを目的とする彼の授業は熾烈を極めた。

 

恋人と別れ、家族から疎外され、友人たちも離れていったニーマンは昼夜を問わずドラムを叩く。手の皮は破れ血が吹き出しドラムもシンバルも血まみれとなる。それでもフレッチャーはOKを出さない。凡庸だが優しい父を自分同様卑しめたフレッチャーを許せず、ついにニーマンは彼にとびかかる

 

ニーマンは退学となり、ドラムを捨てた無為の日々を過ごす。街角のジャズクラブのポスターでフレッチャーの名を見かけ、彼は中へ入る。フレッチャーはピアノを弾いていた。客の陰から隠れるように見ていたニーマンは演奏が終わると逃げるようにクラブを出る。

 

だが、後を追って来たフィッチャーが声をかける。フィッチャーも学校をクビになり、今は超一流バンドの指揮者となっていた。今のバンドのドラムがよくないので、彼にやらないかと誘った。

 

家へ戻ったニーマンは物置から埃まみれのドラムセットを取り出す。当日、喜び勇んで彼は会場へ行った。会場は客で満席だった。バンドのメンバーは超一流ばかりである。だがドラムの前に座った彼は青ざめた。彼だけ譜面がないのだ。

 

舞台へ出て来たフィッチャーが彼にささやいた。「学校へ告げ口したのはお前だろう!」驚愕するニーマン。彼がこの超一流バンドへ誘ったのは、好意ではなく学校をクビになった ことへの復讐だったのか。

 

フィッチャー指揮で演奏が始まった。譜面のないニーマンは形だけドラムを叩くだけである。周囲の演奏者から小声で苛立ちの言葉が投げつけられる。「お前、何やってんだ!」「もっとまともにやれ!」ニヤリとそれを見ているフィッチャー。

 

一曲目が終わるとニーマンは逃げるように廊下へ出た。廊下には彼に内緒で演奏を見にきていた父がいた。客席で状況を察した父は、「家へ帰ろう」と彼を抱く。だが、その腕を振り払いニーマンは再び舞台へ向かう。

 

指揮台でチラリと彼を見るフィチャー。会場へ二曲目を告げようとしたその時、突如としてニーマンのドラム演奏が始まった。フィッチャーも演奏者たちも驚いて彼を見る。彼の叩く曲は「キャラバン」。彼がこれまで何百回、何千回と叩き続け、フィッチャーからOKが出なかった曲だ。

 

曲が終わり、指揮台のフィッチャーが演奏止めの合図を出す。だが、ニーマンだけのドラムは止まらない。ますます佳境へ入っていく。客席へ苦笑いしたフィッチーは、ニーマンへ近づいていう。「目玉をえぐってやるぞ!」

 

ドラムを叩きながら答えるニーマン。「合図を待て」彼のドラムがバンドをリードしていくというのだ。ニーマンの演奏は凄まじかった。彼のドラムが会場を圧倒し、すでに彼は学校時代の彼ではなかった。

 

その演奏に次第にフィッチャーの表情が変わる。あれほど音楽学校で苦闘して成し得なかった天才が、目の前にいることに気づいたのだ。彼は上機嫌でニーマンに指示を出した。超一流のバンドマンたちを圧倒して、天才に成長したニーマンがそこにいた。


アカデミー賞男優助演賞、編集賞、録音賞三部門受賞。
サンダンス映画祭W受賞(グランプリ&観客賞)。

 執筆後記
私はこれまで劇画原作、小説などで数百本の作品を書いて来ましが、この映画にはぶっ飛びました。私自身どうしてもかけなかったドラマとキャラが、縦横無尽に描かれていました。私にとって創作上のテキスト的作品でもあります。